2024.3.12
BISOWN 「Limited Model “USN Denim”」
中出由佳 Yuka Nakade
(BISOWNデザイナー)
セレクトショップにてバイヤー、ディレクター職を経験し、ショップのオリジナルブランド開発やデザインにも携わる。ファッションを広い視野で捉えてきた彼女だからこそ生み出すことができるデザインには、独特のエッセンスが光る。
2024年春夏シーズンより自身のブランドBISOWNを立ち上げる。
BISOWNって、どういうブランドですか?
伊藤「中出さんとは前職からのお付き合いなのでだいぶ長くなりましたよね。そんな中出さんがついにご自身のブランドをスタートさせるということで、きっと会社員時代に作ってきた服とはまた違う、いい意味で解放された中出さんのものづくりが見れるんじゃないかと楽しみに展示会に行ったのを覚えています。早速ですが、BISOWNってどういうブランドですか?」
中出「もともとお付き合いのあったテキスタイルのコンバーターさんとBISOWNを始めました。コンバーターさんは機屋さんともまた違って、日本各地の産地の方とお付き合いがあって、その土地その土地でしか作れないテキスタイルを作っています。そういった、各地に点在する良きものを活かした服作りに意味があるかなと思って、BISOWNはそういった背景を活かして洋服を作っています。海外出張に行くことが多い仕事だったけど、それこそ伊藤くんのお店でも取り扱っているCristaseyaやBergfabelなんかは日本の生地が大好きじゃないですか。そういう人たちから、『やっぱり日本の生地っていいよね』とか、『この生地見てよ、素敵だよね』って言われて、改めて日本の生地の良さに気づけました。もちろん海外には海外の良さがあるし、私も海外の生地独特の雰囲気への憧れはあるけれど、自分たちの土壌には自分たちにしか作れない素晴らしいものがあるのだから、それを使って、ブランドをやっていこうって思っています。そんなブランドです」
伊藤「本当多いですよね、日本の生地を使っている海外ブランドって。僕これから取り扱いを始める予定の海外ブランドがあって、そこでも日本の生地をたくさん使っていました。海外からしたら日本の生地はインポート生地だから、僕らのそれと同じように、日本の生地への憧れがあるのかもですね。ちなみに、BISOWNの展示会に行って僕が思ったのは、やっぱり中出さんは中出さんなんだなって(笑)会社員のときも、しがらみはあったんでしょうけど自分のやりたいことはある程度やられていたんだなって思いました。そこからさらに突き抜けて、らしさが光ってた感じはありました。ものづくりの考えやマインドなどは、BISOWNを立ち上げて変化はありましたか?」
中出「私自身はレディースの服だけじゃなくてメンズの服も好きだし、ベーシックでクラシックなスタイルも好きだし、それをもっと女性らしく着るとかモダンに着るっていうことが好きだったりするんですけど、そのベースは変わらないかなと思っています。ただ、前職ではデニム中心に始めたブランドを作ってたのでデニムが軸にある構成でしたが、BISOWNではもう少し上品な服をデニムで着崩すようなイメージで作ったので、そういった考え方やデニムというアイテムの立ち位置については、前のブランドからは変わっていると思います。もう少しスタイリングの中での味付けの要素みたいな感じですかね」
伊藤「BISOWNの展示会を見に行ったタイミングというのは、Riverとしては2シーズン目の買い付けでした。最初のシーズンは、忠実に目に浮かぶお客さまのことを考えて仕入れを組み立てていたのが正直なところ。でも2シーズン目からは、せっかく自分の店なのだから、自分が好きなものを買い付けようとか、もっと自分のエゴを出していいような気がして、振り切れた気持ちも少しあって。そんな気持ちでBISOWNの展示会に行って、さあ自分が着たいのはどれだろうって考えながら洋服を見ていたら気になったのがデニムでした。でも、試着したらそれが全然似合わなかった(笑)やばい!どうしよう!でもデニムほしいしお店でできたらやりたいし…って急に色々考えが頭を巡って。なにより、まずやっぱり14ozの生地が良かったですね」
中出「前からずっと、コットンで14ozくらいのデニムがやりたいなって思いがあったんですけど、色々考えてなかなか作れていなかったんですよね。長らく考えていてようやく実現したこの生地を気に入ってくれたのがすごい嬉しかったです。備後にある古いデニムの生地屋さんのものです」
伊藤「僕、ライトオンスのデニムって好きじゃねえやって最近気づいたんですよ(笑)ライトオンスのデニムってだいたい最初が一番いいんですよね、洗っていくとふにゃふにゃになる。そのくたびれ具合が気持ち良いっていう人もいるけど、僕はどっちかっていうとデニムに関しては見た目の方が重要だと思ってるから、やっぱり膝が出てきたり形も崩れてきちゃうライトオンスデニムって、どうしても途中からシルエットが気になってしまうんですよ。デニムって履いていくことで良くなるアイテムであるはずなのに、どんどん魅力を失っていくようなものじゃいけないなっていう個人的な思いですね。それで、この14ozのデニムいいぞ!って思ったのに似合わないから、じゃあもう似合うの作ってもらおう!って」
40年代U.S. NAVYの巻きパンツをお願いします
中出「最初伊藤くんからは、U.S.NAVYの巻きパンツかペインターがいいって言われたんですが、伊藤くんがペインターを履くイメージがなかったのと、私が純粋に気分じゃなくて(笑)」
伊藤「昔、町田の古着屋さんでデッドストックのU.S. NAVYのデニムセーラーを2本買ったことがあったんですけど、その当時も高かったけど10万円くらいで買えたんです。その時買ったのが30インチのものだったので、洗って縮んで多分29インチくらいになっちゃってて、シルエットが気分じゃなくって最近手放したんですよね。でも大好きでしょっちゅう履いていたから、やっぱり好きで、またいいサイズのU.S. NAVYのデッドストックがあったら買おうってずっと探していたんですよ。でも最近見つけたデッドストックが30万オーバーで。気づいたらそんな値段になっちゃってるから、じゃあ作りたいなって思ったのと、14ozの巻きパンツなんてあったら絶対いいじゃんって思ったんですよね。そして、できればノリがついたままのノンウォッシュを育てたかった。14ozの生地もしかり、ノンウォッシュも最近あんまりなくないですか?」
中出「そう、私もそう思って。最近意外とないからリジッドの生地で作ってみました。そしたら案外、リジッド履きたいなっていう周りからの反応があったので、嬉しかったですね」
伊藤「薄い色のデニムはみんなもう履いているし、もちろん自分も好きだから履いてますけど、ノンウォッシュを提案するお店が今ないから、そこにチャレンジもしたいなと。あと、最近はきっとノンウォッシュを育てるっていう行為をあんまりやる人がいないんじゃないかなって思って、だから育てるのって楽しいんだよっていうこともRiverで提案したいことでした。TENDERのデニムって17ozあるじゃないですか。僕は昔それを買って、すぐ洗って縮めさせて、コインランドリーに持って行って乾燥機にかけて、ほっかほかのそのデニムをすぐ履いて、近所を歩いて、自分の身体にいかにすぐ馴染ませるかみたいなことを楽しんでやってました。そのままその日はデニムを履いて寝るみたいなことを(笑)それを今、当時の自分くらいの年齢の人たちがやるかっていうとなかなかいないだろうから、そういう楽しさを知って欲しいんです」
このデニムを履きたい理由が他にもあったんです
中出「実は後から聞いたんだけど、伊藤くん自身は、お店で受注会をやっていた三澤さんの靴にこのデニムを合わせるイメージがあったって(笑)」
伊藤「そうですね、春夏はこうやって着たい!っていうスタイルがもともとありました。自分が欲しいものをお店でやろうって買い付けの方針を決めたときに、じゃあ自分らしいスタイルってなんぞやって考えて、その時思い当たったのが、“どんな季節でもネイビーのニットにデニムに、革靴”だなってこと。そのとき三澤さんの靴はもう頭の中にあって、その靴が黒じゃなくてちょっとネイビーに近い色だったから、ノンウォッシュとかワンウォッシュのデニムを三澤さんの靴に合わせて、今シーズンだとNICENESSでいいブルーのニットがあるのでそれを着て、あとは自分が持ってるバーバリーのベージュのトレンチコートだったりとかCristaseyaのコートを合わせるとか。もしかしたら人によってはジャケットを羽織るのかもしれないけど、そんなイメージ像が固まっていましたね。だからこそ、ノンウォッシュっていうのがあったし、色落ちのデニムならのっぺりした色落ちで色はまだ残ってるものっていうのがよかったんです。だからリジッドと、ユーズド加工と2色お願いすることになりました」
中出「糸自体は、通常14ozのデニムに使われるよりももっと太い糸なんだけど、その糸を甘く撚ることでオンスを調整しています。色はピュアインディゴ染め。だから縦落ちしてくるのと、洗うときゅっと縮みやすくて、経年でちょっと節も出てきます。色落ち見本を見せてもらったらそれもすごく素敵でした。色落ち具合はどうしようかと考えたけれど、伊藤くんが三澤さんの靴に合わせたいって考えているというイメージがあったから、私も色を提案しやすいかったです。このデニムはできたら色が残ってた方がいいというのも共通認識でした」
今、履きたいのはきれいなデニム
伊藤「デザインに関しては40年代のものだけど今にアップデートしたものが欲しくて、シルエットはとにかく格好よかったらいいじゃん!って思っていました。中出さんがおっしゃってた、きれいに履くっていうところですね。僕がずっとU.S.NAVYの巻きパンツが好きな理由って、このデニムは名の通り筒状なんですよ。横の縫い目がないから身体に沿っていない。でもそれが独特のシルエットを作ってくれて、それが好き。あとはヒップが小さいんですよ。同じU.S.NAVYのデニムにしたってファティーグのタイプと比べると、どちらも同じような股上の深さだけど巻きタイプはヒップが小さい。それがきれいなんです。太くてずどんて落ちるんだけど、無骨すぎない、どこか上品な印象があるのが魅力ですよね」
中出「あとは元ネタのライトオンスのU.S.NAVYだと裾がちょっとフレアっぽく見えるので、そこはシルエットを調整してストレートに見えるようにしています。若干テーパーが効いているかな」
伊藤「それもいいなって思ってます。まさに僕が巻きパンツを履かなくなった理由ってそれだったんですよ。デッドストックの時はきれいな落ちたシルエットなのに、洗ってくたくたになると裾がぴろんってなって気になって(笑)そこが解消されているのが素晴らしいなって。今回のデニムは、そのシルエットのきれいさを見てもらいたいから、ジャストサイズで履いてウエストはノーベルトで合わせてもらうのが一番おすすめです。でもサイズをあげてベルトで絞って太さを楽しんでももちろんいいです」
中出「わたしも、ジャストサイズでノーベルトで履くのが格好いいなって思います。私はサイズ4だとやっぱりちょっと大きいかなと思うのでジャストで履くならもう少し小さいサイズがいいかな。でも女性が大きめに履いてもかわいいですね。ちなみにリジッドの方は、ワンサイズ分くらいここから縮みます」
伊藤「本当にこういう“きれいなデニム”ってないんですよね。特に最近は、リジッドデニムがないのと同じように見なくなった。メンズでいうと、デザインは無骨だけどライトオンスにすることで履きやすくしていますっていうものは割と多い気がしていて。だからこそ、それの逆をやりたかったのかもしれないです。でもその感覚って、男性の作り手さんだとピンとこないかもしれないなって思いがあって、中出さんだったら多分、この気持ちわかってくれるんじゃないかなって勝手に感じていました」
中出「男性が思うきれいってイメージだと、スラックス型に近づけるとかはあるかもしれないけど、女性が考える“品よく”のイメージとは方向性が違うのかな?わたしも本当、最近きれいに履けるデニムってないなって感じてました」
伊藤「でもこれはスラックスじゃない。カジュアルデザイン、だけどきれいっていう。やっぱり巻き独特のヒップの小ささとかシルエットが、“きれいなデニム“を作ってくれているように思います。本当飽きずにずっと履いてたデザインなので、このデニムが完成して嬉しいし、みんなに一回履いてみてもらいたいです」
BISOWN初めての別注デニムは3月16日(土)から発売予定。ノンウォッシュはワンサイズ程度の縮みがあります。ユーズド加工の同サイズと実寸が異なりますので、サイズが気になる方はぜひ店頭にてご試着ください。
BISOWN “USN Denim”
Size 4 / 5
Navy(ノンウォッシュ) ¥36,000+tax
Used(加工) ¥46,000+tax
Text : Yukina Moriya(@yukina.moriya)
Photo : Ryuhei Komura(@ryuhei.komura)