2024.3.22
NICENESS 「Limited Model “TITO”」
Riverオーナー伊藤がNICENESSの24SS展示会場で思いついたわがままが、思いもよらない形で実現し、Riverエクスクルーシブの“TITO”が誕生。その経緯を聞く。
このシャツを思う存分夏に着たいと思ったら
出来上がってしまった特別なシャツ
「僕の記憶だとこのシャツのモデル“TITO”は23SSシーズンから展開していたように思います。最初からCARLO RIVA(カルロリーバ)の生地でSalvatore Piccolo(サルバトーレピッコロ)が作っていて衝撃が走ったシャツ。そのときは確か8万くらいだったかな、それが次のシーズンには11万になって。生地値も工賃も上がっているんだろうし、為替の影響とか、さまざまなファクターがあると思うんだけど、それが24SSシーズンには12万になった。そこで、このシャツに惚れ込んでいる自分の中から小さなわがままが生まれてしまったんです」
というのも、この贅沢なシャツはせっかくだからとことん生地を使いまくって究極の贅沢をまといたいと思ったそう。そして、そんなシャツはできたらたくさん着たい。冬はジャケットの下に、春は1枚で存在感抜群に。そして真夏だって着たい。けれどもここ最近の日本の夏は執拗なまでに長く、高い湿度で日差しも厳しさを増しているのが現実だ。
「真夏にこの超スペシャルシャツを着たいと思ったとき、これさえ着てればデニムでもスラックスでもショーツでもなんでも成り立つみたいなシャツになればと思った。それならもっとサイズが大きい方がいいなと展示会で試着しているときに考えたんですよ。夏に着るから、やっぱり肌離れした方がいいし、空気をはらむようなシルエットがもともと自分が好きなのもあって。サイズ感はデザイナーの郷さんにお任せしようと思って、その場で『このシャツもっとおっきくしてください』ってお願いしてみました。郷さんには『このLより大きくしちゃって大丈夫すか?』って言われたけど、どうにか僕の依頼は可決されて、今回のRiver別注“TITO”の生産がはじまりました」
ここから、River別注“TITO”は思わぬ展開を見せる。もともと展開されていた4色のカルロリーバの生地のうち、Riverでは3色をオーダー。生産が無事に進んでいるであろう頃、NICENESSチームからの連絡があったという。オーダーしていた生地がXLサイズの生産までまわせなくなっているというのだった。
「オーダーしていた生産ができなくなったという連絡と合わせて、そのときに『Riverなら、伊藤さんなら、この生地がいいんじゃない』って郷さんが思った生地を、郷さんが持っていたカルロリーバの生地から選んでくれたみたいなんです。その写真を拝見したら、赤の大判のチェック柄だった。それを見て期待を超えた感動があったんです。たしかに自分だったらこの色は選ばないけど、大判チェックってずっと好きだし、これを着てる夏の自分が思い浮かんじゃうなあって。だからこの生地を是非ということで、お願いしました。サイズ別注になる予定のものが、なんと完全エクスクルーシブになってしまった!」
ここから話は少しややこしくなるのだが、紆余曲折があり、当初オーダーしていたものの一部が生産可能になったとの連絡が。こうして伊藤がどうしても個人的に欲しかったブルーチェックも無事数枚だけ生産できることとなり、サイズ別注のブルーチェック“TITO”と、Riverにしかない完全別注の“TITO”が完成した。
究極のシャツはどこから来たのか
郷さんがRiverのためにあつらえてくれた大判の赤チェック。独特の配色が目に鮮やかだが、この色から受けるのはどんな印象だろうか?
「この赤チェックって、アメリカのレギュラーのネルシャツとかにありそうな配色だなって、初めて見たとき勝手に思ったんですよね。イギリスっぽい印象もあるなと思ってたら、なんかだんだんアメリカに見えてきて。だってこのシャツにデニム履いてたらめちゃくちゃアメリカ人ぽいですよね。これは僕の解釈なんだけど、アメリカのレギュラーシャツを、日本人のデザイナーが、イタリアの超高級生地を使って、イタリアのナポリの工場で作っている。それもこの“TITO”って、イギリスのカジュアルシャツをリファレンスとして、細部にフランスのドレスシャツを足してNICENESSの解釈で作ったもの。だからイギリス、フランス、イタリア、日本がミックスされていて、なのにこのカルロリーバの生地からはアメリカの匂いを感じる。だからこのシャツはどこからも生まれていない、無国籍感というか多国籍感というか、ジャンルレスでどこにも属さないようなもの」
確かに、昔のラルフローレンやブルックスブラザーズにもありそうで、古着屋で手に入りそうなちょっと懐かしさも感じる配色のシャツだ。そんなシャツがカルロリーバの生地でできているという矛盾が確かにこのシャツの面白さなのだろう。チープに見えながら、生地の持つ光沢感ゆえ美しくラグジュアリーな空気をまとう。
「だからこのシャツは、ジャンルレスな自由な着こなしでいいと思っています。ブルーはすごく爽やかで、赤はパワフルな印象になると思うけど、どちらも夏はショーツにサイケデリックな色のビーサンとかで着て欲しい。合わせて欲しいショーツは本当になんでもないもの。拘ってないショーツが良くて、例えば古着のTOWN & COUNTRYの派手色のコーデュロイショーツとか、柄のスイムショーツとか。リネンやウールの上品なショーツは去年あたりに履いてしまって飽きているし、僕はデニムショーツは履かないし、なんかチノも違うのかなって思っていて。でもそれくらい、なんでもないものを履きたい。あるいは、Riverとしての提案は、CLASSのウルトラスエードのグレーのショーツ。履くとちょっと構築的なシルエットが楽しめます。生地の薄いシャツに厚手のショーツとか、高いシャツに安いショーツとか、そういう幅を楽しんでもらいたいなって」
ショーツ以外のおすすめは?
「あとはシンプルにBISOWNの“USN Denim”やCristaseyaの黒スラックスとかもいいですよね。黒スラックスに赤チェックシャツにビーサン。映画『めがね』の加瀬亮っぽく。夏以外だったら、春先ならタックインして、襟元のボタンはあけてスカーフを合わせてみたりとか、今お店にあるけれどNICENESSのバンダナとか巻いてジャケットをちゃんと着るとかも格好良いと思う。ジャケットに合わせたいし、意外と冬に活躍するかもですね。いいシャツというのは本当に年中着たいものだから」
“TITO”に隠されたラグジュアリー
そもそも、他にもカルロリーバの生地を使ったシャツがたくさんあるはずなのに、なぜこの“TITO”がいいのだろうか?
「他のブランドのシャツを全て見ているわけではないけど、僕はこの“TITO”のパターンとシルエットがすごく好き。広く取られた身幅に加え、袖ぐりの広さ、また袖先のカフスのところに寄せられたギャザー。だからちょっと丸みがあって、それこそ僕の好きな、空気をはらむようなシルエットになる。とても立体的なんです。あとは、ここからは個人的な感想なので正誤は無視して欲しいのですが、他のピッコロ製のシャツよりも手縫いの部分が多い気がするんです。手持ちのCristaseyaや本家Salvatore Piccoloネームのシャツよりも、圧倒的に手が入っている。袖の玉縫いやボタンつけ、ガゼット部分のステッチが手縫いなのはよく見るけれど、“TITO”は襟のステッチが全てまつり縫いになっていたり、先程のカフス部分のギャザーも全部手縫い。この、手が入ることで生まれる洗った後のシワの出方が、ミシンに比べるとやっぱり不均一になるから、独特の表情が出るんですよ」
手縫いもマシンもどちらにもそれぞれの良さがあるが、例えば同じピッコロ製シャツを作るCristaseyaのシャツは、“TITO”に比べマシンが多い。だからこそ、均整がとれ、機械特有の運針の細かさは際立ち、ドレッシーでとにかく品よく美しく仕上がる。高級感が目に見えて分かり、与える印象はよりクリーンになるだろう。
「それに比べて手が多く入ると、手間賃や時間だってかかるじゃないですか。でもそれがあるからこそ、自然に空気を含むようなシルエットが生まれたり、身体に沿ってくれるようなラインが出たりすると思うんです。ぱっと見ただけでは見えてこない隠れたラグジュアリーがそこにあるような気がしています。それが多分、NICENESSの“TITO”が持ってる良さなのかな。そういう抜かりのない表現に、NICENESSの狂気を感じるところ。だからこのシャツが12万という価値がつくのは自分の中では腑に落ちるんです。そりゃそうでしょうねって感じられる凄みがあります」
そんな究極の1枚を用意しながらも、この春夏のRiverは意図的にシャツのラインナップを増やしているという。
「やっぱり最近の夏はとにかく暑いし、長いから。自分自身が着ていて気持ちが高揚するシャツがないとやってられないって思ったんです。年齢的にも、Tシャツにショーツだけだと恥ずかしいっていうのもあって、僕自身は夏にこそ長袖シャツを着る機会が増えてきています。そのシャツはウールだったりコットンだったりリネンだったりするけれど、とにかく素材の良いシャツはずっと着るし、着る機会がなんだかんだ多いというのも経験として分かってきた。だから、『春夏のRiverにいったらなんかいいシャツあるよね』って店になったらいいなと思ったんです。そういう思いも込めて、今シーズンからはこの季節のRiverらしく、シャツをたくさん揃えることにしました」
仮に“TITO”にピンとこなくても、夏に格好良く街を歩ける、あるいはビーチに行って快適に過ごせる、そんなシャツが揃っているRiver。完全エクスクルーシブとなった“TITO”は、明日3/23(土)より店頭発売です。
※Online Storeでは、在庫がご用意できた際には3/30(土)より発売となります。
「NICENESS」
-“Limited Model” TITO-
Cotton100%(CARLO RIVA)
XL
Red Blue Check(ex color)
Blue Check
¥132,000 intax
XL – 肩幅53,身幅67,袖丈66,着丈86cm
–
Text : Yukina Moriya(@yukina.moriya)