BLOG

2024.4.3

Noriyuki Misawa 「Bordeaux」

RiverとNoriyuki Misawaのコラボレーションにより、新たなモデル〈Bordeaux〉が誕生します。初めてのコラボレーション〈Copper〉を経て、なんと三澤氏はこの〈Bordeaux〉を、木型を作るところから取り組んでくださっていたのです。

そんなスペシャルシューズについてのお話を伺うべく再び工房を訪ねたのは、三澤氏がニューヨーク、そしてパリでのファッションウィークにて展示やパリで同時期に開催していた個展を終えたばかりの頃。せっかくなので、旅のお話を交え、改めて世界に対して三澤氏が感じたことや、今回の靴作りのこと、そしてそれを経た今後の展望までたっぷりお話いただきました。

 

自分の状態と呼応したニューヨーク

伊藤「まずは海外2都市での展示おつかれさまでした。反応はどうでしたか?」

三澤「僕が海外で初めて開催した個展が、ニューヨークのチェルシーにあるギャラリーでした。今回は7年ぶりに同じエリアでファッションウィークの展示に参加したんですが、まずその頃とは街に対する印象や感じ方が全然変わったなと思いました。7年前は、ニューヨークと自分との間に距離があって、あんまり好きになれなかったところがあったんですけど、今回は自分の精神状態なのか、年齢によるものなのか、たくさんのものが魅力的に感じれらましたね。何に対してもアグレッシブで野生的、動物的なエネルギーに満ちている場所に7年前の自分は『ちょっときついな』と感じていたんですが、今回はその空気が逆にいいエネルギーとして捉えられて、自分自身もアーティストモードになれたというか、常にクリエイティブなこと、新しいアイディアやデザインを考えたいという状態になれたんですよね。かなり感覚が研ぎ澄まされて、10日間という限られた滞在の中で2日間もカフェに入り浸って、次の創作のアイディアを練る時間にあてました」

三澤「今回もたまたま、当時個展をしたチェルシーというエリアにある会場を使わせてもらうことになっていたので土地の雰囲気はなんとなく分かっていましたが、会場がとにかく素晴らしい場所でした。天井も高くて、広々としたスペースに、個展さながらの展示をすることができたような感じです。会場の半分くらいのスペースでショーを行っていて、出入りする人に向けて展示をするというお話だったんですが、普段知り合わないような職種の人たち、ファッションの分野の人たちにも本当にたくさん見ていただけて、興味を持ってもらえました。ショー会場を管理する主催者の方が僕の作品を気に入ってくださって、モデルに靴を履かせて撮影をしようとか、そういった動きをしてくれたりもして、とてもありがたかったです」

伊藤「Instagramで現地からのポストを拝見していて、それだけで僕もとても刺激を受けていました。思った以上の収穫があったんですね」

三澤「ファッションの場所で、実際に履ける靴ばかりを持って行ってもインパクトがないし、自分の個性が活きないかなと思ったので、今回はオブジェを主体にした展示構成で、その中に〈Copper〉を展示したんですがとにかく〈Copper〉の人気はすごかったように感じます。なんだこれ!みたいに、驚きと興味を示してくれる方が多かったです」

伊藤「ニューヨークの空気に刺激を受けて次の創作のアイディアまで練られたとおっしゃってましたが、どんなことを?」

三澤「ニューヨークの土地やエリアごとに作品を展示したり、撮影したり、そのエリアからインスパイアされたデザインの靴を作りたいなと、次のプロジェクトの構想を練っていました。履ける靴だったら、実際にその場所を歩いている人に履いてもらって写真を撮ったりする取り組みもしたいなと考えています」

伊藤「観光とかはされなかったんですか?」

三澤「メトロポリタン美術館とかホイットニーとか、MOMAに行ったくらいですかね。メトロポリタンも遊びに行ったというよりは、ファッションウィーク会場で美術館のキュレーターの方が僕の作品に興味を持ってくださって、一度遊びにきてくださいと声をかけていただいたので、お話にうかがったような感じなんですよ。美術の深い話なんかもキュレーターの方から聞けたし、そういう場所に今後自分が挑戦するんであれば、どういう風になっていかないと挑戦権すらもらえないのかとか、考えるきっかけにもなったしビジョンも見えてきました。そこまでいけたらもう目標の最高到達点ですが、夢でも、挑戦はしたいなと思います」

伊藤「そういった挑戦のマインドに関しても、アグレッシブなニューヨークの空気が今回は以前と違って刺激になったという話に通じますね」

三澤「物価も高いし、ここに住んだら破産するだろうなみたいなイメージは湧きましたけどね(笑)それこそメトロポリタンに行ったあと、午後いっぱい撮影の予定を控えていたので、どうしても美術館から出るタイミングにお昼ご飯を食べてしまいたいと思って、館内でクロワッサンを買ったんですよ。そしたら8ドルでした、1,200円ですよ。びっくりしすぎて飲み物買えなかったです。でも現地に住んでる写真家やクリエイターやキュレータなど知り合った人はみんな、現地に住んでたってきついですよと話していました。やっぱりニューヨークは、なんとなく目的なしに住む場所ではなくて、何かの目的と引き換えにぎりぎりの状態でもサバイブして、何かを獲得していくような場所なんだって口を揃えて言っていました」

 

充実のニューヨークを経たパリでの経験

伊藤「そこからすぐにパリに向かわれてましたよね?いい状態で向かえましたか?」

三澤「ニューヨークから戻って1週間くらいで行ったので体調的にはきつかったです。パリは、ファッションウィークに参加することは決まっていましたが、ニューヨークに比べて会場の条件などがあまり魅力的ではなかったので、どうせならということで個展もやることにしたんです。今回のパリで僕は世界5大都市で個展をできたことになるんですが、ニューヨークやロンドンはギャラリストに業務を委託していたので、レセプションや集客などはもちろんギャラリーがやってくれたんです。ただ今回はほとんど場所を借りるだけの状態だったので、丸裸で臨みました。什器や展示の計画も自分たちでやるし、もちろん集客も自分たちです。だからかなり自分の力が試されるなって、不安な状態ではありましたが、結果は盛況に終わって、パリのデザイン界隈の人やシューメーカーの人にも、インパクトを与えることはできたかなという手応えはありました」

伊藤「こちらから招待できる人が増えたなという実感を得られたということですか?それとも、たまたま通りがかった人からの反応とか、新たな出会いに手応えがあったということですか?」

三澤「後者のほうですね。今回5大都市制覇でなんとなく自分の中では個展というスタイルが一区切りするなという気持ちがあったので、そう言った意味では節目にふさわしいような個展になりました。次からは、同じスタイルの個展というよりは、もうちょっとコンセプチュアルに、変化をしていきたいですね」

伊藤「一区切りして、新たな経験もして、これからのビジョンも見えて、そんな新しい三澤さんが生み出す作品がこれからも楽しみです。その中に履ける靴があるなら、Riverでやりたいですね」

三澤「それももちろん考えています。ニューヨークにいる時も、Riverで展開するのだとしたらどんな土地から考えてどんなモデルがいいだろうみたいなことを勝手ながら考えていました」

 

〈Copper〉があったから生まれた〈Bordeaux〉

伊藤「そんな世界中で大活躍中の三澤さんにお願いするのはもう恐れ多いくらいなのですが、今回の新しいローファーも、僕が当初オーダーしたいと思っていたローファーからRiver用にアップデートしていただいたんですよね?」

三澤「最初にお話を頂いたときに伊藤さんが気にしてくださっていたモデルは2012年か2013年くらいに、僕がまだ駆け出しの頃に作っていたモデルでした。Riverというお店で僕の作品を初めて発表するには、そのとき作っていたクラシックテイストの強いものではなくて、もっとアーティスティックな作品性の強いものの方がいいのではないかなと考えて、いろいろ見ていただきましたよね」

伊藤「その中で、ショーケースに飾られていた〈MASAMUNE Ⅱ〉に僕がピンときてしまったのもあって、初めてのお取り扱いでコラボレーション作品〈Copper〉を取り扱わせていただくことになりましたね。でもずっと、最初に気になっていたローファーは頭の片隅に残っていました」

三澤「あのローファーのモデルになったものが、ニコラス・タックゼックというロンドンにあった伝説的なビスポーク・シューメイカーのローファーです。タックゼックにものすごく憧れていたので、当時から昔のビンテージシューズも集めていましたし、写真なんかも片っ端から見ていました。あるとき、パリに住む僕の友人とタックゼックの話をメールでやりとりしていたんですよ。その友人は僕が知る中でも一番おしゃれな方で。その彼が『こんなのすごいタックゼックの靴があるよ』と見せてくれたのがこのモデルの元になったローファーの写真だったんです」

伊藤「ビスポークの靴ということはどなたかがオーダーしたもののアーカイブとかなんですかね?」

三澤「これは憶測で、なんの確証もないのですが、フランスの貴族のバロン・ド・レデのコレクションの一部なのではないかという話でした。このレデ公爵は、タックゼックの上顧客で、お宝のような靴たちが並んだ靴棚が写真に残っているくらい、有名なコレクターです。その彼のコレクションなのではという話だったのですが、何より、フランス人がオーダーしたロンドンのビスポークシューズというストーリーがめちゃくちゃいいなと。上品な感じやフランスらしさがほのかに感じられて、それをコピーして僕も靴を作ってみたいなと思って、初めて挑戦したのが最初に伊藤さんが見てくださっていたローファーでした」

伊藤「いいストーリーですね!その時に見たローファーよりも、少しカジュアル感というか、いい意味での余白がある気がしたんですよね。最初に拝見させていただいたものは、完成されすぎていて、美しさに隙がないような印象だったんです」

三澤「今回挑戦したのは、Riverで〈Copper〉のオーダー会もさせていただいて、そこに来るお客様の感じも少し垣間見ることができたので、僕なりに『Riverで発表するならこんな感じ』というムードを落とし込むことでした。パッと見ただけではデザインも一緒に見えるし、配色も変わっていないんですが、僕なりのアレンジを加えています。そもそも木型をゼロから開発しています」

伊藤「木型から開発するというのは相当なことですよね?なかなか聞きません」

三澤「木型から作るというのは、靴業界の中では結構なことなんですよ。それくらい気合が入っています。せっかく〈Copper〉をたくさんの人にオーダーいただき、その経験値があるのだから、できるだけその木型のイメージは維持しないと、お客様はまた一からサイズを考え直さなければいけないということにもなってしまう。なので、そのイメージを保ちながら木型を設計していきました。そしてヒールの高さやヒールの大きさもオリジナルに変更しています。もう一つ、注目して欲しいのは、ソールの糸目のデコレーションです」

三澤「通常角があるようなギザギザとした形が一般的なのですが、これはやや丸みをもったギザギザというか、特徴的な形をしています。めちゃくちゃ細かいのですが(笑)ビンテージの特殊な道具を使って、糸目を潰しながらデコレーションしています。そういった全体のバランスで、伊藤さんがおっしゃったように、カジュアルさを少し出しています」

伊藤「もともと見させていただいていたものはもっと、ぎゅーっとしてるというか、かなり靴の幅自体も細かったですよね。ヒールもやや厚さがあるからか、スーツじゃなくてカジュアルな洋服に合わせても違和感がないような程よい抜けを感じます。本当にバランスがいい」

三澤「今回もオーダー会をやるということで、このローファーは革スワッチからお好みの革を選んで組み合わせていただけます。ツートーンになっていますが、例えば黒×黒で革の種類を変えるとかも可能です。クロコなど一部の革は少し価格が上がってしまうものもありますが」

伊藤「僕、当初真っ白の靴が欲しかったから、予定通り真っ白もいいなあって思ってました。でもツートンがやっぱりいいかなあ…迷うのも楽しい。そして、前回Riverで受注会を開催した際に、ビスポークシューズを作ったことがないというお客様が多かったので、今回ビスポークのオーダーもできたらと思ったのですがどうでしょう?」

三澤「もちろんやりましょう。既製靴には既製靴の良さがあって、木型を開発したという話もあったとおり、その時点で作り手のデザインが入っているんですよね。今回のモデルはこんな形だからこういう設計という。プロダクトとしての完成度は100%の状態が既にそこにあるわけです。それをビスポークでつくるということは、一人ひとりのお客様の足にあわせていくので、プロダクトとしての良さを維持しながら、お客様にとっての最良の形を作る、ということになります。だから例えば、このモデルがどうしても履きたいんだけど絶対に合わなくて履けないとか、もう少し快適に履きたいとか、そういったときにはビスポークという良さをご提案できるのかなと思います」

伊藤「ありがとうございます!その場合はもちろん、このローファーでなくても、どんな形でも大丈夫ですよね?例えば、『こんな足の僕にはどんなモデルが合うか提案してほしい!』とか、『三澤さんの作品の別のモデルが欲しいけどフィッティングが不安だからそのデザインを僕仕様につくってください!』とか」

三澤「はい、Riverに来て洋服を買うような流れで、『せっかくだからこんなテイストに合わせる靴を一足作ってください』という感じで、気軽に、といっても金額は決して軽くはないですが、そういう気持ちで考えていただけたらと思います」

木型から開発された新作の〈Bordeaux〉は、革スワッチの中からお好みの革の組み合わせでオーダーいただけます。オーダーイベント中13(土)、14(日)は三澤氏もRiverに在店予定です。フィッティングのご相談から、革選びまで、一緒に悩みましょう。スペシャルなシューズとビスポークのオーダーイベントは3日間限定で予約制にて開催いたします。詳細はRiverまでお気軽にお問い合わせください。

Order Event
Noriyuki Misawa 〈Bordeaux〉

24.04.13(Sat) – 04.15(Mon)
Delivery Date : End of July

 

Text : Yukina Moriya(@yukina.moriya
Photo : Ryuhei Komura(@ryuhei.komura