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2024.10.10

KOOKY ZOO「Limied Model “MINIATURE IMITATE TROUSERS”」

2021年AWからスタートしたKOOKY ZOO(クーキーズー)。子供服を大人が着たらどうなるか?という少し変わった着想源から生み出される洋服たちは一見すると面白味に溢れているが、ひとたび身体を通してみると思ってもみなかった驚きに包まれる。そんなブランドに魅了されて別注のデニムを制作した今回。デザイナーの鈴木さんをお迎えして鈴木さんが愛するアメリカンビンテージの魅力やブランドのことを聞きました。

KOOKYZOO

伊藤「そもそもなんですが、KOOKYZOOっていうブランド名の由来を聞いたことがなかったです」

鈴木「僕自身、色んなものを集めるのが好きなんですけど、その中の一つが、PEZ(ペッツ)っていうオーストリア発祥のラムネ菓子のブランドのお菓子容器で。おもちゃの一種みたいな感じですけど、ラムネ菓子を詰めるプラスチックの容器の本体の上に、たとえばサンタクロースとかアニメのキャラクターとかの頭が乗せられているものです、知っている方は知っているはず。それをたくさん集めていて、その中の一つに“kooky-zoo”というシリーズがあるんですよ。動物をモチーフにしたシリーズなんですけれど、その動物たちがたとえばピンクの顔に鼻が黒いゾウとか、真っ青な顔したライオンとか、とにかく変なんです。その変な感じがとにかく好きで。あとは単純に言葉の響きとして、子供っぽい感じがするところとか、カタカナにしても英語にしても語呂がいいところとか、ちょっと可愛らしい感じも気に入っていて。KOOKYZOOは直訳すると『不思議な動物園』という意味なんですけど、それも自分が作っている洋服とも逸脱していない感じがしたんですよね。着てる人がちょっとだけ変わった感じに見える、不思議さがある、みたいなところを狙っているので。好きなものをミックスしている、自分のものづくりの根底からも逸脱していないいい名前だなと思ってこの名前にしました」

伊藤「めちゃめちゃしっくりくる名前ですね。初めて知りました。あと、鈴木さんの経歴を差し支えなければ聞きたいのですが、昔エドウィンにいらっしゃったんですよね?

鈴木「新卒で株式会社エドウィンに入って、その中でライセンシーとしてやっているLeeというブランドのデザイナーをやっていました。12年くらい続けて、独立してブランドを立ち上げました。当時Leeでやってたことっていうのが、昔のLeeの服を復刻するという仕事でした。その中でデニムの素材とか仕様にまつわるような、広く言えばデニムの歴史に携わるような仕事をしていたので、そこで得たノウハウをKOOKYZOOには取り入れるようにしています。見た目はこうだけど中身は意外とこうなっているんだ、というギャップが洋服に含まれていたほうが面白いかなと思っています」

伊藤「ちなみにエドウィンの一号店って日暮里の交差点のところですよね。僕は学生時代に某デニムショップで働いたんですけど、その時エドウィンの営業の方とかが良く来る店舗にいたので、なんとなくLeeWranglerもエドウィンがやってるんだというのは学生ながらに思っていました働いている頃は同時に文化服装学院の学生でもあったので、制作のために生地を買いに行くことがあって、よく日暮里に行ってたんです。そこで、やたら古そうな建物があって、エドウィンが置いてあったりLeeとかWranglerも置いてあるお店があるなって見てたんですよ。そのことがあったから勝手に鈴木さんがエドウィンで働いてたっていうのを聞いてから親近感が湧いたといいますか(笑)その時は立場も全て違うのに今こうして一緒にお仕事できてるって何かの縁なのかなと感じました

好きなものをミックスさせることで見える新しさ

伊藤「そもそも僕は前職のお店のときから、他の店舗で取り扱われている鈴木さんの洋服を見たりしていて面白いなと思っていて、実際に購入もさせてもらっていてデニムも愛用しているんですが、今シーズンから新しくリリースされた、通常のシリーズとは異なる“MINIATURE”シリーズに本当に新鮮味を感じて衝撃を受けまして。その中の一つを元に別注をお願いさせていただいた流れですね。

鈴木「はい、まずKOOKYZOO2021年のAWからスタートしているのでこのAW7シーズン目になります。子供服を大人が着たらどうなるかというコンセプトのJUVENILE”ラインとは別に、”24AWからはもっと小さい“MINIATURE”というシリーズを始めました。今回伊藤さんが目をつけてくれたパンツもこちらのシリーズですね」

伊藤「“MINIATURE”シリーズは、子供服よりもさらに小さいものをコンセプトにしているということですよね?“JUVENILE”シリーズも、もちろんすでにKOOKYZOOとしての着想とかデザインの面白さがあったんですが、それ以上に本当に印象的だったというか目に留まったのが“MINIATURE”シリーズでした」

鈴木「子供服よりもっと小さいものが元になっています。たとえばLevi’sセールスマンサンプルというものがあります。今のように便利で無かった時代、Levi’s社の営業担当広いアメリカ大陸を駆け回って営業する時に実寸のデニムを何十本も抱えて動けないので、営業の際に活用するために作られた小さい見本がセールスマンサンプルですね。そういったものをモチーフにしているのが“MINIATURE”シリーズです。子供服っていうのは当然洋服なので大人と一緒の機能だったり素材だったりとかはある程度踏襲されていて、洋服として成立するものにもちろんなっているわけなんですけれど、今回新しくリリースした“MINIATURE”シリーズというものは、子供服よりももっと小さいものであり、完全に見てくれだけのもの、洋服としての機能を果たしていないもの、というのをベースにしています。機能としてはある意味不完全であり、洋服のパターン自体も人が着ることを想定されていないようなパターンですね。それをあえて直さずに、そこをチャームポイントとして捉えて今日において着て楽しめる洋服に仕上げています」

伊藤「子供服を大人が着たら、というコンセプト自体はブランドの核かと思うのですが、着想源はどこからですか?」

鈴木「マルタンマルジェラの94年のコレクション、A doll’s wardrobeにインスパイアされているのは事実です。いわゆるバービー人形が着ているような洋服を拡大して大人が着られるサイズで作る、ということですが、その発想に惹かれているところがありま。でも現代で自分が作るにおいてはそれを模倣しても仕方がないし、それに対して何を足せるか、どういうオリジナリティを持たせられるかなって考えたときに、自分がもともと好きだったアメリカンカジュアルだったりとかが組み合わさりました。そこに、パターンメイキングで現代人が着て格好いいと思え洋服や心地いいと思える洋服を組み立てよう、というの裏テーマとして持たせています

伊藤「鈴木さんとお会いしてお話しするときとか、KOOKYZOOのコレクションを見たりしてとても感じるのは、鈴木さんご自身がアメリカンビンテージが大好きなんだなってこと。でも、アメリカの古着が好きな方がこういうデザインをするってあんまりないなって勝手に思ってて。好きな方々はおそらく元ネタを模倣していくが大半なんだと思うんですけど、そこに『子供服を大人の人が着れるようにする』というアイディアをプラスしてきたのが鈴木さんのすごいところですよね。その視点が新しく加わるだけで、単なるアメリカンビンテージの追求とは一線を画した、前衛的で新しいものづくりになるんだということを感じて。マルジェラのドール期もそうですが、それを模倣するだけじゃなく、なんというか視点をミックスしているのが新しいのかななんて思ったりしていました

鈴木「おっしゃる通りです。ミックスという言葉が自分の考え方に対して一番しっくりきます自分が通ってきた好きなもの、たとえば話題上がったマルタンマルジェラだったりアメリカンビンテージだったりもそうですし、あとは言葉にできないような自分の好きなもの。そういうものを全て混ぜてやるっていう感じですね。だからミックスという言葉はまさにその通りだなと感じました

伊藤「そのミックスした視点の中でも、さらにシルエットとかパターンっていうのがKOOKYZOOの洋服が持つキーワードな気がしています。いい意味での、着たときの違和感と。美しいけれどちょっと不思議で目に留まるつい気になってしまう、というのがKOOKYZOO洋服の面白さですね。僕、“JUVENILE”のデニムを履いていますけど、古着っぽいけど古着じゃないんだよなっていうバランスとか、シルエットがとにかくきれいだなとか。パターンって何か秘密があるんですか?

鈴木「基本的に洋服の企画からパターンまで、そして工場さんとやりとりまでっていうのを全部自分でやらせてもらっていて、自分の目と手が届く範囲で洋服作りをするようにしているんですけれど、パターンについてはおっしゃる通り、見た目がこういう面白味のあるデザインだったり、ともするとキャラっぽい感じに見えなくもないので、見た時の驚きと、それと合わせて着た時の驚きはい意味では逆転するようには心がけています。元ネタが持つ不完全さは消さないようにしながらも、ちゃんと大人が洋服として着られるように最低限整えるというのでしょうか

なんか不思議、をそのままに。最大限に。

伊藤「今回からスタートした“MINIATURE”をやろうと思ったきっかけはあるんですか?」

鈴木「確かになんででしょうね。なんか、チグハグなものにすごく惹かれるんですよ、個人的に。子供服も好きで集めていますが、その理由が多分、なんかちょっと変だから、なんですよね。Gパンひとつとっても、僕らが見慣れているGパンと子供服のそれは同じなんだけど全然違う。そこに自分として、もっと変なものをやりたいという気分が出てきたんだと思うんです。だからもっとバランスのおかしい、“MINIATURE”ってシリーズをやりたいって思ったんだろうなって、今改めて考えて思いますね」

伊藤「マルジェラのドール期にやや近くなっていますね」

鈴木「そうかもしれないですね。でも色んなものがソースにあります。ひとつはセールスマンサンプルですが、あとは身近なもので言うと、某アウトドアブランドのレジ横にあるような小さいスーベニア用のキーホルダーのトートバッグがあるんですけど、それも僕にとってはミニチュアの範疇なので、実際に持てるサイズにしたらどうなるかなって思って作ったりとか。あとはお人形が着ている洋服も次のシーズンでは作ったりもしていますし、それらを総じて“MINIATURE”というシリーズにしています」

伊藤「個人的な話なんですけれど、そういうストーリーとか、あるいは洋服に隠された仕込みみたいなものとかを、種明かしされたから納得してものを欲しくなるかっていうよりは、そういう話を聞かずして、ぱっと見て格好いいなとか、履いてみてすごくしっくりくるなとか、そういう感覚の部分を大事にして仕入しているんです。だから意外とデザイナーさんの話を聞くタイミングがなくて、鈴木さんのそういうストーリーとかを全く意識していなかったです(笑)」

鈴木「僕自身も、語り尽くすことはいいとは思わないといいますか、種明かししすぎちゃうと興醒めするところがありますよね。だからどこか不可思議なままでありたいとも思うので、あまり世間的には言葉を尽くしすぎなくてもいいのかなとも思うところです」

伊藤「確かにファッションって、見えないものがあるから面白い部分もあるわけですからね」

鈴木「とはいえ概要がないとただ変な服になったりもするのでそこが難しいところでもありますかね」

伊藤「自分が気に入って買ったものがあとあと、『こんなことになってたんだ!』とか『実はここそんなに拘ってたんだ』とかがあとから分かるほうが個人的には、自分の感性が間違いでは無かったんだという自己満足にも繋がる気が(笑)」

鈴木「全く同じで、そういう気持ちで作ってるところがあります。そう感じて洋服を着てもらいたいというか。知らずとその感覚がリンクしているからKOOKYZOOの洋服に興味を持っていただいてるんじゃないかなって思いますね」

伊藤「話は戻って、“MINIATURE”シリーズのひとつに感銘を受けたことからお願いした今回の別注なんですけれど。そうはいいながらも展示会では、“JUVENILE”シリーズの定番のデニムだったり、の新作だったりも一通り試してみたんですよね。それでもその中、“MINIATUREシリーズにあったコーデュロイのパンツのシルエットがとにかく気になったんです」

鈴木「もともとは、1960年代くらいのセールスマンサンプルとして見つかったコーデュロイパンツをベースに作ったものですね

伊藤「Riverだと“JUVENILE”シリーズの新作である1940年代のカウボーイ用デニムをベースにしたモデルも仕入させていただいてるんですけど、それ以外に新しいノンウォッシュのデニムも欲しいなって思って。それで、気になったコーデュロイパンツをノンウォッシュのデニム生地で作ってもらったらどうなるかなって思ってご相談させていただきましたね。デニム生地は、定番のものと一緒になんでしたっけ?」

鈴木「“JUVENILE”シリーズの13.5ozのものと同じ生地ですね。伊藤さんの希望でそうしていますが、このデザインヘビーオンスでやろうとするところが伊藤さんらしいなって思いました。僕だったらこのデザインデニムを作るならライトオンスを選んじゃうかなって思います

伊藤「その話もしましたね。でも結果的にはこのどしっとした感じがいいかなって。すごくいい仕上がりです。このデニム生地って鈴木さんが特に気に入っている生地なんですか?」

鈴木「そうですね。とくに特注で作ったりしているわけではないですけれど、手前味噌ながらずっとデニム業界にいて、その経験からくる判断で使っているもの。それでも蘊蓄で選ぶというよりはすごく感覚的に選んでいるんですが、とても気に入っている生地ですね。なので定番の商品にずっと据えて使っています」

伊藤「デザインは、1960年代くらいのセールスマンサンプルということなので、だからバックポケットがポケットとして機能していない、ただのフラップがついているだけのデザインになっていたりするわけですね?

鈴木「基本的には元ネタに仕様を合わせています。フロントは元ネタに関してもちゃんと機能するポケットが付いていたのでそのままにしているんですけど、後ろは本当に飾りで、片側にだけフラップのような布をつけている仕様になっていました。不便ではあるけれどこれを機能するポケットにしちゃうとデザイン自体が変わってしまうのでフラップとは言えないようなでかい布をつけています。このボタンも、MINIATURE用に作っている特注ボタンです。もともとは糸つけの樹脂ボタンなんですけど、ここはアレンジしてオリジナルにしています」

伊藤「ゴールドなのがまたいいですね」

鈴木「本当におもちゃっぽい感じになりますよね。裾はダブル仕様ですが、ここもまた異様に太いダブル幅になっていたりそしてベルトループも名刺みたいなサイズのものになっています。ベルトループは4つです

伊藤「その歪さが、一見したときに『あれ?』って思う不思議さなんですよね。でも本物であるというのも面白いです。ジップも当時のものを踏襲していますか?

鈴木「元ネタにあわせてカムロックと言われる両爪のグリッパージッパーをリプロダクトしたものを使っています。あとはパターンもできる限り元ネタに忠実にしています。普通のパンツはお尻を頂点にしてウエストに向かって細くなっていくというのが基本的な作りですが、このパンツ人が着ることを想定していないために、ヒップの寸法をそのままウエストまでズドンと上げているですよね。だからめちゃくちゃウエストが大きいんです。逆にいうとそれは色んな人が履けるという理由にもなるので、ウエストを絞って履いてもいいし、サスペンダーをつけてもいいし、自分が好きなように履いてもらえるかなっていうことでそのままにしています。最低限人が履けるという部分においてマナー違反にならないようにはパターンを修正して作っていますが、そういったところは元のデザインに沿って、人が着ることを考えすぎないようにしています。それを補って余りあるくらい、インパクトがあったり可愛さがあったりするのがいいところかなと

伊藤「そうですね僕にとってもウエスト絶対大きいんでそれを絞ったときに生まれるちぐはぐさが面白いなって思っています。人が履いた時のことをあまり考えていないっておっしゃってましたけど、でも僕が履いた時にきれいなシルエットだなと感じたことも事実です。その部分に不思議な面白さもありますね」

鈴木「語弊があるのかもしれないけれど、良し悪しでは捉えられなくて、好きか嫌いかでしかないですよね。当たり前ですけれど好きな人は好きだし、嫌いな人は嫌いだろうなって思いますし、それでいいのかなと」

伊藤「そしてこの“MINIATURE”シリーズは2サイズ展開だったんですけれど、ABっていう不思議な振り分けで。その意図は?

鈴木「“JUVENILE”シリーズは数字でサイズを分けていて、それとは全く別の考え方というか、いずれにしてもサイズは大きくなってしまうものではあるのかなと思っていたこともあり、混同しないようにする記号としてつけているイメージですかね」

伊藤「Riverではその2サイズのうちで、A作らずBのみにしました、より大きい方のサイズですね。僕ぐらいの体型の人が絞って履いて、そのときに生まれるシルエットバランスを楽しんでもいいし、もちろん身長の高い方とか体格の良い方が履いてもその人らしいシルエットバランスになるでしょうし。その振り幅が楽しさの一つのなので、Bだけのサイズでお願いしています。でもこれって僕がもう、サイズ感こわれているのかな(笑)」

鈴木「潔いですよね。伊藤さんらしいですよね

伊藤「ありがとうございます。さらっとTシャツ一枚でもだいぶインパクトがあるデニムなので、何合わせようか楽しみでずっと考えてしまいます濃紺のデニムに白いニットとか合わせたいので、もしあれば白いニット着て、ベージュのトレンチとかステンカラーコートもいいし、しわしわのレザージャケットを着るのもいいですね。あるいはインバーアランのざっくりした手編みのニットとかもいいかな。秋冬って、重厚な素材とか粗野な素材を使ったものって増えるじゃないですか、ニットもしかりあとはツイードのコート。温もりあふれる印象になるのでデニムとかは薄いブルーとか軽い印象で合わせたいなっていつも思うんですけど、今年はあえて逆をやりたくて、白とか淡い色のトップスに濃い色のデニムとかを合わせたいなって。でもネイビーのニットかな。結局(笑)

着用イメージがどんどん湧いてくるような、不思議なデニムは今週末から発売となります。水洗いで丈は1.5cmほど縮みますが、それぞれのサイズバランスでお楽しみください。

KOOKY ZOO

Limited Model “MINIATURE IMITATE TROUSERS

B

Indigo

¥59,400intax

※実寸→ウエスト94,渡り幅36,裾幅32,股下75cm

Text : Yukina Moriya(@yukina.moriya)
Photo : Ryuhei Komura(@ryuhei.komura)