2024.9.18
BISOWN 「Limited Model “Extra Wide Denim”」
「前回の“USN Denim”が、ビンテージを踏襲したものであり、原型があるものを現代風にするという方法論で作ったもの。だとしたら今回は逆のプロダクトを中出さんに作ってもらいたかった」
こうして生まれたBISOWN別注デニム第二弾のお話です。
寸法から生まれるデザイン
伊藤「前回のBISOWN別注デニムは、ビンテージをリファレンスとして現代的に再生産させる、というのを僕の中ではイメージしていました。だから今回は、今履きたいデニムを一から作ってもらいたい、というのが前提にあって。ただ、形とかデザインは、BISOWNが定番で作っているベーシックなデニムデザインから取るのがいいんじゃないかなって。その上で、全体のバランスが『探しても意外とないもの』であり、いわゆる『何年代っぽい色落ち』みたいな示唆がない、『見たことがない色』で作りたい、という方向性で依頼したのがスタートですね」
中出「たしか前回の別注デニムが完成して、今回みたいに伊藤くんから取材依頼を受けたときに話の流れから一緒にデニムの寸法を測ったりして、次の別注の話をしましたよね。裾幅はこれくらいがいいんじゃないかっていう議論をその場でした記憶があります」
伊藤「そうですね。僕が最初中出さんにお伝えしたのは、これくらいの大きさがいいっていう寸法だけでしたよね。BISOWNのデニムは、もともとヒップがコンパクトで、その一方でわたり幅は501とかよりも太くて、男臭さがない。昔のビンテージっぽさがないデニムだなっていうのが僕が初めて履いたときに抱いた印象だったから、その印象をもっと強調したいなって思ったんです。ヒップとウエストのバランスはそのままに、『わたりと裾幅をこれくらいでっかくしてください!』って伝えてできたのが今回の“Extra Wide Denim”。でも寸法だけだとシルエットってわからないから、そのあたりは完全に中出さんにお任せしました。この依頼の仕方ってすごいナンセンスですよね(笑)デザインありきで洋服ってできあがるのに、寸法から生まれるデザインなんて、存在しないじゃないですか」
中出「私も本当はこの秋冬でワイドデニムを作りたいなということは考えていたんだけど、コレクションとの相性だったりとかで一旦見送っていたんですよね。だから今回こういうアイディアをもらって、一緒に作ることができました。もともとBISOWNのデニムを伊藤くんには履いてもらっていたし、そのバランスもわかっていたから、自分の中で思っていたワイドデニムの構想と、裾幅を結構出したいという伊藤くんからの希望を汲んで、うまく全体のバランスを整えていった感じですかね」
伊藤「僕はどうしても、裾幅が30cm欲しかったんですよ。なぜなら、探してもそんなデニムはないから。たとえばリーバイスの501XXが、501史上一番裾幅が広いはずなんですけど、僕が持っているビッグサイズのものでも裾幅は27cmくらい。わたり幅が40cm弱あるペインターなんかでも結局テーパーが効いて裾幅は26cmくらいなんです。40インチの古いペインターを買って寸法を測ったことがあるんですけど、それでもわたり幅は38cmで裾幅が28cmくらいだった。それくらいの裾幅がなんかいいなあって思ったから、今回はその寸法を中出さんに最初に伝えました。探してもない、っていうのをやっぱりやりたかったというのが根底にありました」
中出「そもそも昔の人って、広い裾幅である理由なんてないもんね。わたり幅は、体格が大きい人のためとか、ワークウェアだから動く分量としての必要性があったりすると思うけど、裾幅はあったらじゃまなだけですよね、結局靴が隠れちゃったり(笑)」
伊藤「ですよね。だからこそ、昔のデザインをリファレンスとしないものっていう新しさもあるかなと。形とシルエットに関しては全てを託して、後日サンプルを見たときにもう完璧!ってなりました。でも、完璧すぎて、普通に収まりがよくて、普通にバランスが取れてしまって、あれ、これじゃあ面白くない?って逆に感じたんです。僕自身は、大きいサイズのデニムを履くことにすごく慣れているから、ビッグサイズのものをウエストを絞って履いたときに出る違和感のあるシルエットみたいなものが見慣れていて、そのバランスを見たかったのもあるんですけど、案外綺麗に収まりすぎてしまった印象があって。そのとき作ってもらっていたサンプルサイズが、BISOWNでいう5というサイズ、一般的にはXL相当のサイズのものだったので、そこからさらにサイズは上げて、6相当のサイズと、7を飛び越えて8というサイズの2サイズ展開にしようと思いました。165cmの僕が履いてウエストを絞れるサイズが6だと考えると、ちょっと身長のある方だったらジャストで履くなら7かもしれないから、あえて大きいサイズをギュッと絞って履くバランスっていいんですよという感覚を、提案したくて」
中出「寸法でいうと結構大きいよね。6のサイズのウエストはたしか84cmくらいなのでインチでいうと33、8サイズは37〜38インチくらいじゃないかな」
伊藤「はい。めっちゃ太いデニムなんで、名前を“Extra Wide Denim”にしたんですけど、6と8ってサイズは分かりづらいと思ったので、6をXSとして8をSと呼ぶことにしました。エクストラワイドデニムの、エクストラスモールサイズと、スモールサイズです(笑)このデニムは、わたりも大きければ裾幅も大きいし、ウエストも大きいんですけど、ヒップのコンパクトさは残していただいているので、ビッグサイズデニムによくあるようなストリート感とか男臭さとか、無骨なイメージは感じさせない。そこがBISOWNらしさだなって改めて思います。だから、女性がXSサイズを履いてぎゅっとウエストを絞ってもらうのもいいなって思います。中出さんにもXSサイズを履いてもらいました。身長によって丈詰めは必要かと思いますが、BISOWNらしいバランスは女性でもしっくりくるんじゃないかな」
中出「普通にリーバイスとかのデニムでサイズを上げて履くと、カジュアルパンツの作りっていうこともあってもともとお尻の下が落ちているのがさらにずどんとボリュームが出るシルエットになると思うんだけど、BISOWNではそこを調整しています。サイズを上げてもお尻の下がそこまで落ちないですっきり履きやすいように。それは伊藤くんが合わせるバランスを考えてというところもあるんだけど、ボトムスが太くて、トップスにも大きいものをあえて合わせることが多いじゃないですか。上がコンパクトなものを合わせる場合は、お尻のあたりにずどんと落ち感があってもいいのかもしれないけれど、大きいシルエットのボトムスに大きいサイズのトップスだった場合、お尻のあたりがたまったデザインだとバランスがおかしくなるかなって。だからそういうスタイリングのときにも成立するようなバランスを目指しています」
伊藤「僕のバランス見てくれてたんですね、ありがとうございます!それが大人っぽさの所以っていうか。多分男性デザイナーさんはこうはしないだろうなっていうこのバランスが中出さんなんだなって思いますね」
所有者を特定しない色
伊藤「色に関しては、僕は秋冬のシーズンになったら、粗野で重厚な色や素材のトップスに合わせるのには、軽やかでフェードしたような色のボトムスがいいなと思っていたこともあって、ファーストサンプルでこのフェードした色をあげてもらいましたよね。この色もすごいよかった」
中出「色も、ビンテージのこのくらいの年代の色、とかヒゲがどうとかそういうことではない、のっぺりした色で2色になりましたね」
伊藤「いわゆるヒゲとかハチノスとかがしっかりあって、格好いいとされるビンテージデニムの顔じゃない。濃淡もないしのっぺりした縦落ちでワーク感もない色がよかったんですよね。デニムの色落ちって所有者の色がでるじゃないですか。よく膝をつく人だから膝の色が抜けているとか、足を曲げたときにできる癖がヒゲになったりとか。そういう、所有者の痕跡みたいなものは一切排除したかったんです。それと、秋冬の買い付けを進めているときに感じたことは、年齢を重ねていって、自分が買うものがちょっと綺麗な洋服にシフトしていってるなと。あるいは、朝起きて着たいと思うものがちょっと綺麗なものが増えているように感じたりとか。そういう服に合わせられるデニムって、多分こういう濃淡がないもののほうが合う気がして。よりシルエットが強調される色、このバランスが強調される色って考えたら今回の色にたどり着いたって感じですね。秋冬に履きたかった薄い色と、探しても見つからないのっぺりブルー」
中出「この色出しについては、画像で伊藤くんから色指定があったんだけど、濃い色のデニムって、意外と薄く加工されちゃったり、このちょうどありそうでない色ってなかなかこれまでも出せていなかったんですよね。だからもらった画像を参考に目指しつつ、加工するときに作る筒見本も、何本か作って検証して、詰めていってようやく出た色ですね。本当、ありそうでない色になったと思っています」
伊藤「あとはジップですね。BISOWNはボタンフライなんだけど急遽ジップに変えてもらいました。これも僕が歳を重ねて思ったことで。これまではお客さんにも散々『デニムはボタンフライだからいいんじゃないですか』って伝えてきていて、それでも人生の先輩たちは『いいのはわかるけど面倒くさいんだよ』なんて言っていて、それに対してどうにかボタンフライの良さを伝えてたはずなのに、今になって僕もちょっとボタンフライ面倒くさいなと思うことが増えて(笑)というのと、今回はビンテージを目指したデニムでもないんだからジップが相性がいいかなと。ジップはなんでもいいですって頼んだんですけど、なんでTALONにしたんですか?」
中出「私はもともとボタンフライ派ではあるんだけど、確かに履いたときの硬さだったり履きにくさが気になることはあるから、ジップフライでもいいかと納得して。でもファスナーってすごい悩みました。YKKでもいいって言われたけど私はやっぱりちょっと嫌だなという気持ちもあって、今回のテーマにはビンテージっぽさとかって関係ないとは分かっていたけど、TALONジップはやっぱりテンション上がるじゃないですか(笑)」
伊藤「TALONなことで逆に混沌として、時代も本当にミックスされましたね。ビンテージでもないけど最先端って感じでもなく、どこにもなさが出ましたね。勝手にYKKのシルバーの綺麗なやつがくると思ってたんで。あと耳もないし、タックもダーツも、隠しダーツさえもないシンプルで潔いデザインもすごく気に入っています。匿名的であり、自分が欲しかったデニムの具現化ができました」
BISOWN “Extra Wide Denim”
Size XS / S
SUNNY BLUE / RAIN BLUE
¥47,300intax
XS→ウエスト86,渡幅36,裾幅31,股下77cm
S→ウエスト94,渡幅37,裾幅32.5,股下78cm
※Online Store販売は、9/21土〜9/23月の店頭販売終了後、残在庫を9/24(火)12:00よりOnline Storeにて発売開始とさせていただきます。
Text : Yukina Moriya(@yukina.moriya)
Photo : Ryuhei Komura(@ryuhei.komura)